新型コロナウイルスの感染拡大で助成率を引き上げている「雇用調整助成金」(雇調金)の特例措置を11月末まで延長する方針が発表されました。
2020年度は、上場企業の6社に1社が雇用調整助成金を受け取っており、空運や鉄道など非製造業を中心に受給総額は4500億円を超えました。全国的に感染拡大が広がる中、企業による雇用維持を促すための「雇用調整助成金」。
概要や受給までの流れ、今後の課題までまとめます。

雇用調整助成金(特例措置)とは

雇用調整助成金(特例措置)とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、従業員の「労使間の協定」に基づき、雇用を維持するために、従業員に一時的な休業(調整)や出向、職業訓練を行った際に受給できる助成金です。
「雇用調整助成金」は通常、正社員など雇用保険に加入している労働者が対象ですが、特例措置ではアルバイトなど雇用保険未加入の非正規労働者も助成対象となります。

政府は、新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の特例措置について9月末までとしている現在の助成内容を、11月末まで継続する方針を固めました。
感染がなかなか収まらず、緊急事態措置区域として7府県が追加され、期間も延長されたこと等を踏まえた結論です。
さらに、2021年度の最低賃金(時給)の引き上げが10月に見込まれており、企業の人件費負担が増えることへの配慮も含まれています。
ちなみに、最低賃金の引き上げ額は過去最大の28円(7月末現在の全国平均902円→930円)。特に、中小企業に大きな負担があると言われています。
※最低賃金に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

雇用調整助成金の支給対象となる事業主

新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置では、以下の条件を満たす全ての業種の事業主を対象としています。

1.新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
2.最近1か月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少している(※)
  ※比較対象とする月についても、柔軟な取り扱いとする特例措置があります。
3.労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている

雇用調整助成金助成額と助成率、支給限度日数

通常、助成の日額上限は1人あたり約8,300円ですが、特例措置ではコロナ禍で業績が悪化した企業の支援策として助成の日額上限が引き上げられました。1人1日13,500円(条件により15,000円)を上限額として、労働者へ支払う休業手当等のうち最大10分の9(条件により最大10分の10)が助成されます。

《助成額の計算》
(平均賃金額(※) × 休業手当等の支払率)× 下表の助成率 (1人1日あたり15,000円もしくは13,500円が上限)
※平均賃金額の算定について、小規模の事業所(概ね20人以下)は簡略化する特例措置を実施しています。
<分類>
1…令和2年1月24日から判定基礎期間の末日までの解雇等の有無及び「判定基礎期間末日の労働者数が各月末の労働者数平均の4/5以上」の要件により適用する助成率を判断
2…令和3年1月8日から判定基礎期間の末日までの解雇等の有無により適用する助成率を判断

雇用調整助成金受給までの5STEP

ここでは雇用調整助成金を受給するまでを5STEPでご紹介します。

①休業計画を立てる
休業期間の日数や時間帯、人数、休業手当の額(労基法で60%以上と規定)を決定。

②休業協定書にまとめ、従業員の代表と合意する
休業計画を書面にまとめ、労働組合または労働者の代表と合意。

③計画を実行し、休業手当を支給
休業計画を実行し、タイムカードや勤怠表に記載。
休業手当の額を給与明細や賃金台帳に記載。

④助成金の支給申請書を作成
申請様式と作成マニュアルを準備し、マニュアルに沿って作成。

⑤労働局・ハローワークへ申請

※各マニュアル、詳しい説明は厚生労働省のHPをご覧ください。

上場企業約620社で受給総額は4500億円

日本経済新聞が上場企業約3800社の20年度(20年4月期~21年3月期)の有価証券報告書を集計したところ、622社が営業外収益や特別利益などで雇調金収入を計上しました。受給総額は約4530億円と、雇調金全体の1割強を占めています。
622社の売上高は前の期比17%減の82兆円、最終損益は合計で2兆円の赤字(前の期は2兆6000億円の黒字)で、雇調金収入がなければさらに赤字が拡大していました。

業種別に見ると、非製造業が371社・3611億円と社数ベースで6割、金額ベースで8割を占めました。受給額が最も多いのはサービス業で1202億円(177社)。鉄道・バス(993億円)、空運(558億円)が続きます。

雇調金を受け取った622社のうち、21年度の業績予想を開示している約520社をみると、最終赤字を見込むのは38社と7%にとどまり、9割強が黒字転換や増益を計画しています。
ワクチン接種による経済の持ち直しを前提としており、雇調金の特例措置が切れる前に業績が回復するかどうかが焦点となっています。

雇用調整助成金の今後

雇用調整助成金の支給決定件数は2021年8月時点で418万件となっています。
失業率の悪化を防ぐ目的から見ると、一定の効果があったと言われています。例えば20年4月~10月の完全失業率は平均2.9%でしたが、助成金がなければ5.5%程度という高い水準になっていたという分析もあがっているためです。

支給額は2020年3月からの累計で4.1兆円を超えています。国の一般会計からの投入は予算ベースで支給額の4分の1に達しています。これまで、別事業の積立金からの借り入れなどでしのいできましたが、財源が底を突き始めている現状です。
雇用保険の積立金は19年度の4.5兆円から21年度の見込み額は0.2兆円まで減っており、追加の国費投入や、22年度にも企業・働き手の雇用保険料を引き上げる検討も迫られています。

雇調金の特例とそれに頼る構造が長引けば、成長分野への労働移動を結果的に遅らせるという側面もあり、日本総合研究所の山田久副理事長は「ワクチン接種が進む今秋以降を見据え、日本も出口を探す時期にきている」と指摘しています。
海外を見ると、例えばドイツには雇調金と同じような「操業短縮手当」があり、英国などは雇用支援の多くを国費でまかなっています。
事業を縮小した場合世論の反発を招く恐れがあるため、各国ともに出口戦略に難航しているのです。

再び感染が急拡大する今、経済の持ち直しに遅れが生じる懸念が強まっており、必要な支援を維持・強化しながら、長くは続けられない危機対応の出口を探る必要があり、今後の予算編成にも注目されています。