2026年4月から施行される女性活躍推進法の改正により、従業員100名以上の中小企業にも新たな義務が課されることになります。これまで301名以上の企業のみが対象だった男女間賃金差異の情報公表義務が拡大され、多くの中小企業が初めてこの制度に対応することになります。
この法改正は単なる事務負担の増加ではなく、企業のダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを社会に示す重要な機会でもあります。適切な準備と対応により、優秀な人材の確保や企業価値の向上につなげることも可能です。
本記事では、株式会社GRAEM(グリーム)が採用支援の専門企業として、中小企業の人事担当者が押さえるべき改正内容と実践的な対応策について詳しく解説いたします。
2026年4月女性活躍推進法改正の全体像
対象企業の拡大と適用範囲
今回の法改正で最も大きな変更点は、対象企業の拡大です。現在は常時雇用する労働者が301名以上の企業のみが義務対象でしたが、2026年4月からは100名以上の企業まで拡大されます。
対象となる「常時雇用する労働者」には、正社員だけでなく以下の従業員も含まれます。
- 契約社員、嘱託社員
- パートタイム労働者(週20時間以上勤務)
- 派遣労働者(派遣先企業でカウント)
- 有期雇用労働者(1年を超える雇用見込みがある者)
つまり、正社員数だけで判断するのではなく、実質的に企業の戦力として継続勤務している全ての従業員を対象に人数をカウントする必要があります。このため、実際の対象企業数は予想以上に多くなる可能性があります。
主な改正ポイントの詳細
改正される主要な内容は以下の通りです。
- 一般事業主行動計画の策定・届出義務:女性活躍推進のための具体的な目標と取り組み内容を明文化
- 男女間賃金差異の情報公表義務:全労働者、正社員、非正社員それぞれの男女間賃金格差を公表
- 女性活躍推進に関する情報公表:採用者に占める女性比率、管理職に占める女性比率など
- 社内への周知義務:策定した行動計画を労働者に適切に周知
特に男女間賃金差異の公表は、企業の人事戦略や給与体系の透明性が社会に晒されることを意味するため、慎重な準備が必要です。
法改正までのスケジュール
2026年4月の施行まで、企業が準備すべきタイムラインは以下のようになります。
- 2024年内:現状分析と課題抽出
- 2025年前半:データ収集体制の整備、社内制度の見直し
- 2025年後半:一般事業主行動計画の策定、社内周知の準備
- 2026年3月:最終確認と提出準備完了
- 2026年4月:法改正施行、情報公表開始
効果的な対応のためには、逆算思考で計画的に準備を進めることが重要です。
多くの中小企業にとって初めての対応となるこの法改正ですが、単なるコンプライアンス対応で終わらせてはもったいありません。この機会を活用して、女性従業員のキャリア支援制度を整備し、多様な人材が活躍できる環境を構築することで、優秀な人材の確保と定着率向上につなげることができます。早期の準備開始により、競合他社との差別化要因としても活用可能です。
男女間賃金差異の情報公表義務とは
賃金差異の計算方法
男女間賃金差異の計算は、男性の平均年間賃金に対する女性の平均年間賃金の割合で算出します。具体的な計算式は以下の通りです。
男女間賃金差異(%) = (女性の平均年間賃金 ÷ 男性の平均年間賃金)× 100
この計算を以下の3つの区分で行う必要があります。
- 全労働者:正社員・非正社員を含む全従業員
- 正社員:正社員のみ
- 非正社員:パート、契約社員等の非正社員のみ
年間賃金には、基本給、諸手当、賞与、残業代などを含む総額で計算します。ただし、退職金や福利厚生費は含まれません。また、計算対象期間は事業年度単位で設定し、毎年更新することが求められます。
重要なのは、この数値は単純な男女差別を表すものではなく、勤続年数、職種、役職等の違いも反映された結果であることを理解しておくことです。
公表形式と掲載場所
情報公表は以下の方法で行う必要があります。
- 自社ホームページでの掲載(最も一般的)
- 厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースへの登録
- その他インターネットで閲覧可能な方法
公表する内容は、数値だけでなく状況説明や改善に向けた取り組みも併記することが推奨されています。例えば、「当社の男女間賃金差異は○○%ですが、これは管理職に占める男性比率が高いことが主な要因です。女性管理職比率向上のため、○○の取り組みを実施しています」といった説明文を添えることで、企業姿勢を明確に示すことができます。
また、求職者が容易にアクセスできる場所に掲載することが重要で、採用ページからのリンクを設置するなど、透明性の高い情報開示が求められます。
更新頻度と注意事項
情報の更新は年1回以上行う必要があり、データに大きな変動があった場合は適宜更新することが望ましいとされています。
公表にあたっての注意事項は以下の通りです。
- データの正確性確保:給与計算システムとの整合性を十分に確認
- 個人情報保護:個人が特定される可能性がある場合の配慮
- 継続的な改善:数値の推移を記録し、改善傾向を示す
- ステークホルダーへの説明:投資家や取引先への適切な情報提供
特に中小企業では従業員数が限られるため、統計的な意味を持つデータの解釈には十分な注意が必要です。
男女間賃金差異の公表は、一見ネガティブに捉えられがちですが、実は企業の透明性と改善意欲をアピールする絶好の機会です。数値だけでなく、その背景にある要因分析と具体的な改善施策を併せて公表することで、求職者や取引先からの信頼獲得につなげることができます。特に若い世代の求職者は、企業のダイバーシティへの取り組みを重視する傾向があるため、戦略的な情報開示により採用力向上も期待できます。
中小企業が取るべき準備対応策
データ収集・整理体制の構築
法改正対応の第一歩は、正確なデータ収集体制の構築です。多くの中小企業では、人事データが分散管理されているケースが多く、まずは情報の一元化が必要となります。
整備すべきデータ項目は以下の通りです。
- 従業員基本情報:性別、雇用形態、入社日、部署、役職
- 賃金情報:基本給、諸手当、賞与、時間外労働手当
- 勤務実態:勤務時間、有給取得日数、育児休業取得履歴
- キャリア情報:昇進・昇格履歴、研修受講履歴、異動履歴
データ収集にあたっては、給与計算ソフトとの連携を検討することが効率的です。手作業での集計は誤りが生じやすく、継続的な運用も困難になります。
また、個人情報保護の観点から、データアクセス権限の明確化とセキュリティ対策の強化も同時に進める必要があります。特定の担当者のみがアクセス可能な環境を構築し、データの取り扱いルールを明文化しておくことが重要です。
一般事業主行動計画の策定
一般事業主行動計画は、女性活躍推進のための具体的な目標と取り組み内容を明記した計画書です。以下の要素を含む必要があります。
- 計画期間:通常2〜3年間で設定
- 現状分析:女性従業員の配置・登用状況の把握
- 課題の特定:改善が必要な項目の明確化
- 定量目標:数値で測定可能な具体的目標
- 取り組み内容:目標達成のための具体的施策
目標設定例としては以下のようなものがあります。
- 管理職に占める女性比率を現在の○%から○%に向上
- 男女間賃金差異を○ポイント改善
- 女性従業員の平均勤続年数を○年に延長
- 育児休業取得率(女性)を○%に向上
重要なのは、自社の実情に合った現実的な目標設定を行うことです。過度に高い目標は達成困難となり、低すぎる目標は改善効果が期待できません。
社内制度・環境の整備
法改正対応を機に、女性が活躍しやすい社内制度の見直し・整備を行うことが重要です。以下の観点から検討を進めてください。
キャリア支援制度の充実
- メンター制度の導入
- 管理職候補者研修の実施
- キャリア面談の定期実施
- 社外研修参加支援
ワークライフバランス支援
- フレックスタイム制の導入
- 在宅勤務制度の整備
- 短時間正社員制度の検討
- 育児・介護支援制度の拡充
評価・昇進制度の透明化
- 評価基準の明文化・公開
- 昇進要件の明確化
- 360度評価の導入検討
- 成果主義の徹底
これらの制度整備は、全従業員の働きやすさ向上にもつながるため、生産性向上や離職率低下といった副次的効果も期待できます。
中小企業の強みは意思決定の迅速さと組織の機動力です。この特性を活かし、法改正対応を単なるコンプライアンス業務で終わらせず、組織変革の好機として捉えることが重要です。特にデータ収集・分析体制の構築は、人事戦略の高度化にも直結するため、外部の専門家との連携も視野に入れながら、持続可能な仕組み作りを進めることをお勧めします。初期投資は必要ですが、中長期的な競争力強化につながる重要な取り組みです。
コンプライアンスリスクと回避戦略
法的リスクと罰則規定
女性活躍推進法違反に対する法的リスクは、段階的に厳しくなる仕組みとなっています。まず行政指導から始まり、改善されない場合は企業名の公表、最終的には過料が科される可能性があります。
具体的なリスクは以下の通りです。
- 一般事業主行動計画の策定・届出違反:20万円以下の過料
- 情報公表義務違反:行政指導、企業名公表
- 虚偽報告・データ隠蔽:信用失墜、取引停止リスク
- 労働局からの報告徴収拒否:20万円以下の過料
法的リスク以上に深刻なのがレピュテーションリスクです。企業名が公表された場合、以下のような影響が想定されます。
- 優秀な人材の採用困難
- 既存従業員のモチベーション低下
- 取引先からの信頼失墜
- 株価や企業価値の下落(上場企業の場合)
- 金融機関からの評価低下
特に中小企業では、一度失った信頼の回復は非常に困難であるため、予防的なリスク管理が極めて重要です。
企業評価への影響分析
女性活躍推進法への対応状況は、様々なステークホルダーからの企業評価に直接影響します。特に以下の観点での影響が顕著に現れます。
採用市場での競争力
最近の調査では、就職活動中の学生の約7割が「企業のダイバーシティへの取り組み」を重視していることが明らかになっています。女性活躍推進に積極的な企業は、優秀な人材獲得で有利になる一方、対応が不十分な企業は人材確保に苦戦する可能性があります。
ESG投資の観点
環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する投資が拡大する中、女性活躍推進は「S(社会)」の重要な評価項目となっています。金融機関による融資審査や投資判断においても、これらの取り組み状況が考慮されるケースが増えています。
取引先企業からの評価
大手企業では、サプライチェーン全体でのダイバーシティ推進を重視する傾向があり、取引先選定の際に女性活躍推進の状況を確認するケースも増えています。
リスク軽減の具体的手法
コンプライアンスリスクを最小化するための具体的手法をご紹介します。
内部管理体制の強化
- 専任担当者の配置:法改正対応の責任者を明確に設定
- 定期的な進捗管理:月次での進捗確認と課題抽出
- 外部専門家との連携:社会保険労務士や弁護士への相談体制確保
- 従業員への周知徹底:制度変更の適切な社内コミュニケーション
データ管理の徹底
- 複数人でのチェック体制:データ入力・計算ミスの防止
- 定期的な監査:外部機関による客観的な検証
- バックアップ体制:システム障害時の代替手段確保
- アップデート対応:法令改正に応じた迅速な制度見直し
ポジティブな情報発信
リスク回避だけでなく、積極的な情報発信により企業価値向上を図ることも重要です。
- 自社ホームページでの取り組み紹介
- 採用説明会でのダイバーシティ推進アピール
- 地域メディアへの情報提供
- 業界団体での事例発表
これらの取り組みにより、法改正対応を企業ブランディングの機会として活用することが可能です。
リスク管理は守りの対応ですが、中小企業こそ攻めの姿勢で法改正に向き合うべきです。大手企業に比べて組織がコンパクトな中小企業では、トップのリーダーシップにより迅速かつ実効性の高い女性活躍推進策を実行できます。この機会を活用して、業界内での差別化ポジションを確立し、人材獲得競争での優位性を築くことが、持続的成長への近道となるでしょう。
まとめ
2026年4月の女性活躍推進法改正は、従業員100名以上の中小企業にとって大きな転換点となります。男女間賃金差異の情報公表義務をはじめとする新たな要求事項への対応は、単なるコンプライアンス業務を超えて、企業の持続的成長と競争力強化につながる重要な取り組みです。
準備期間は限られていますが、早期に着手することで十分な対応が可能です。データ収集体制の構築、一般事業主行動計画の策定、社内制度の整備を段階的に進め、リスクを最小化しながら企業価値の向上を図ることが重要です。
株式会社GRAEM(グリーム)では、このような法改正対応から採用戦略の最適化まで、中小企業の人事課題解決を総合的にサポートしております。ぜひお気軽にご相談ください。
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